概要
2022年9月30日、東海財務局は新型コロナウイルス禍で業績が落ち込んだ企業向けの国の支援策「ゼロゼロ融資」をめぐって、愛知県の中日信用金庫(本店:名古屋市)に業務改善命令を出しました。
ゼロゼロ融資をめぐる不正での行政処分は全国で初めてとなります。
融資をめぐる内部管理体制に不備があることから、管理責任の明確化を求めるものです。
そもそもゼロゼロ融資とは?
ゼロゼロ融資とは、新型コロナウイルス感染症流行の影響によって売り上げが減少した個人事業者や中小企業に対して、実質無利子・無担保で融資を行う融資制度のことです。
コロナ禍が始まった2020年4月から取り扱い開始がされました。
政府系金融機関(例えば、日本政策金融公庫)は2022年9月、民間金融機関は2021年3月まで新規貸付の受付を行っていました。
日本政策公庫を活用した場合、条件を満たすことで個人事業主は最大6,000万円、中小企業は最大で3億円が実質無利子で借りられました。
返済が滞った場合でも元本の8割あるいは全額を信用保証協会が肩代わりする仕組みになっていました。
中小企業庁によれば2022年6月末時点で融資実績は国全体で約234万件、42兆円とされています。
2023年7月から2024年4月にかけて、ゼロゼロ融資を受けた事業者からの返済が本格化することになっており、借り換えができないと倒産の恐れが増すと言われています。
ポイント1:どのくらいの割合で不正がおこなわれていたか
中日信金のゼロゼロ融資の取扱件数約3,700件のうち、約2%にあたる79件が不正な融資であったと発表しました。
名古屋市内の21店舗のうち7店舗で、11人の職員が不正に関与していました。
ゼロゼロ融資の申込時に必要となるセーフティネット保証の認定申請において、売上高の減少率が申請基準に達していない取引先について申請基準を満たすよう売上高を偽装していました。
その偽装書類を用いて保証申請を行い、信用保証協会の承諾を得たうえで資金を貸し付けていたものです。
信用金庫職員の筆者コメント
当時のゼロゼロ融資の取り扱いの内容にまず驚いたことを覚えています。
金融機関にとってはノーリスク(信用保証協会100%保証)、かつ顧客にとっても3年間は実質無利息という内容であったため、いち早く取引先に声をかけ、申込を行うよう本部や支店長から厳しい指示・指導があったのは事実です。
民間金融機関なら認定・保証条件は一緒であり、まずメイン取引先から声掛けして、一巡したらサブ取引先にも声掛けしていくという繰り返しでした。
しかし、「売上が減少している」という認定申請には金融機関の証明をつける必要があり、偽装やウソの書類を作ることは担当者のレベルでも「やってはいけない」と感じていました。
当然、開始直後にはゼロゼロ融資の認定条件に当てはまらないお客様もおり、その場合は「もうすこし時期を待ちましょう」とその場での申込を断念したものです。
ポイント2:不正が起きた背景はなにか
ひとことで言うと、支店や担当者の「ノルマ達成のため」です。
言い換えれば、コンプライアンスよりも貸出金残高目標の達成を優先して指示した経営姿勢に問題がありました。
中日信金では、理事長が営業推進担当役員にコンプライアンス担当を兼務させるなど権限を集中させていました。
そうすることで、弊害が生じているにもかかわらず、営業店の実態や金庫全体の状況を把握していない(=黙認している)要因がありました。
営業推進部門長及び営業推進部門は、頻繁な進捗確認や厳しい叱責などの過度な営業管理を行っていたほか、営業推進担当役員はこうした過度な営業管理を知りつつ許容し、是正指導を行っていませんでした。
たしかに当時はコロナ禍の始まりで、誰も先行きが見通せない状況でした。
ゼロゼロ融資は、そんな先が見通せない状況の企業の「資金繰りを支える」という大義名分がまかりとおっていました。
一方、金融機関としては、返済が滞った場合は政府や保証協会が全額保証する制度であり、金利も都道府県が補助してくれるため顧客にとって損もしない。
なおかつ、平均貸出金利を上回るゼロゼロ融資の取り扱いが増えれば、金融機関の収益改善にも大きく貢献することが明白であったのです。
信用金庫職員の筆者コメント
ゼロゼロ融資が始まった当初は、とにかく取引先事業所を訪問し、資金需要が明確でなくても会社や個人事業主に対して、月次売上を出してもらい、認定がとれるかを計算する。
条件に当てはまれば、即申し込み~融資実行といった状況でした。
信用金庫の取引先は中小零細企業が多いですが、年商と同程度や普段よりかなり多めの融資申し込みをして、融資獲得を第一優先させる営業方針でした。
しかし、私の信用金庫では、定期的に内部監査があるため、ゼロゼロ融資の申し込みの状況、認定書類の計算根拠のチェック、金銭消費貸借証書などの契約書類を偽造や職員が代筆していないかなどのチェックやヒアリングをされたことをはっきりと覚えています。
ポイント3:相互牽制や内部管理態勢が不十分であった
中日信金は過度な営業管理により、職員が業績目標の達成を最優先事項として考え、コンプライアンス意識及び顧客本位の業務運営に係る意識が希薄化していました。
また経営陣は、コンプライアンス部門及び内部監査部門に対して、牽制機能を確保するための適切な態勢整備を行っていませんでした。
コンプライアンス部門は、ゼロゼロ融資を「自店検査」の検査項目に盛り込んでいないなど、営業推進に対する牽制機能の発揮が不十分でした。
内部監査部門は、コロナ関連融資業務の通達の周知徹底状況のヒアリングにとどまるなど、深度ある監査を行っておらず、また、内部通報制度やハラスメントに関する相談対応が十分に機能していな
いこともわかっています。
つまり、職員が業績目標の達成を最優先事項として考え法令等遵守の意識が希薄しても、牽制機能や制度すらなかったのです。
当時の山田功理事長は次の総代会で辞任しました。
東海財務局に対し、業務の改善計画を提出することとなり、不正の対象となった融資は、同じ条件で保証協会の保証のない独自の融資に切り替える対応を行いました。
信用金庫職員の筆者コメント
当時、職員が業績目標の達成を最優先事項として考えていたのは、どの信用金庫、金融機関でも一緒だったのではないかと思います。
たしかに、ゼロゼロ融資は企業の資金繰りを支えるため、金利も都道府県が補助してくれるため、この制度を使わなければ損をする位の感覚で営業をしていました。
万が一、返済が滞った場合は政府・保証協会が保証する制度。
平均貸出金利が1%を下回っていた私の信用金庫でも、1%後半の金利であったゼロゼロ融資の取り扱いが増えれば、金融機関の収益改善につながることは、職員にも周知されていました。
しかし、私の信用金庫では、コンプライアンス違反や着服・横領などの不祥事件を起こせば、クビになったり、相当な重い処分が科されることを日頃から教育されていました。
「コンプライアンス違反は絶対にやってはいけない」「自分だけでなく、身内や家族も不幸になる」と繰り返し言い聞かされていました。
すべての銀行員にとって、「コンプライアンスを当然に守ったうえでの営業活動」それが当たり前の感覚であったはずです。
それを乗り越えさせるほどの「過度な営業管理」をしていた中日信用金庫は、業務改善命令が出たことにも納得させられます。
金融機関は「信用」が事業の本質にも関わるものであり、重大な違反であると言わざるをえません。
まとめ
中日信用金庫のゼロゼロ融資に基づく業務改善命令は、大きく2つの要因により起こるべくして起こってしまった不祥事であるといえます。
- 営業推進部門による過度な営業管理により、職員が業績目標の達成を最優先事項として考え、コンプライアンス意識及び顧客本位の業務運営に係る意識が希薄化していたこと。
- 経営陣は、コンプライアンス部門及び内部監査部門に対して、牽制機能を確保するための適切な態勢整備を行っていなかったこと。
地域の中小企業や個人事業主にとって、信用金庫は重要な資金支援の金融機関として欠かせません。
また、当然金融機関は日頃からコンプライアンスに基づいた適切な運用が求められています。
コロナ禍という誰もが経験したことのない経済状況の中でのゼロゼロ融資は、金融機関の本質をあぶり出すものであったと思います。
業務改善命令に基づく対応で企業風土や職員の意識は改善されると思います。
中日信用金庫には社会的役割や影響を改めて理解して、今後も地元経済を支える存在として活躍してほしいと思います。